遺言書とは

遺言書は、自分が死んだときの財産の処分方法を決めるものです。満15歳以上であれば遺言書を書くことができます。

遺言書の種類

遺言書には自筆証書遺言公正証書遺言があります。 自筆証書遺言は、遺言者自身が作成する遺言書です。 公正証書遺言は、公証役場の公証人の元で作成する遺言書です。

自筆証書遺言

自筆証書遺言の作成方法

自筆証書遺言は、遺言者が遺言書の全文を自書し、作成年月日、氏名を記入して押印します。

なお、遺言書に添付する財産目録については、パソコンで作成したものや、預金通帳のコピー等を添付しても構いません。ただし、 財産目録1ページごとに遺言者が署名押印する必要があります。

遺言書の保管方法

自筆証書遺言は、自宅等で保管する方法、遺言執行者等に預ける方法の他、2020年7月からは法務局に保管申請ができるようになりました。

法務局への保管申請

遺言の保管申請は、遺言者の住所地、本籍地、または遺言者の有する不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局に対して行います。

遺言書の保管申請の流れ
1遺言者が所定の様式で自筆証書遺言を作成。
2法務局に保管申請。その際、遺言書及び申請書類の他、保管申請手数料3,900円が必要です。
3法務局で遺言書を画像データ化して管理し、遺言書原本を保管します。遺言者には保管証が交付されます。
4遺言者の存命中であれば、遺言書の閲覧請求や保管申請の撤回、変更の届出(住所、氏名等)をすることができます。
5遺言者の死亡後、相続人等は、遺言書情報証明書の交付請求や、遺言書の閲覧請求をすることができます その際、他の相続人に対して遺言書が保管されていることが通知されます。

遺言書の検認

遺言者の死後、自筆証書遺言の保管者または発見者は、遅滞なく家庭裁判所に遺言書の検認の請求をしなければなりません。 遺言書の検認を受けないと、遺言を執行する事ができません。ただし、遺言書を法務局に保管した場合の「遺言書情報証明書」は、検認の必要はありません。

検認は、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です (遺言の有効・無効を判断する手続ではありません)。

なお、遺言書が封印(封筒に入れられ、糊で封じた部分に遺言者の印が押されている状態)されている場合は、家庭裁判所で相続人またはその代理人の立会の下で開封しなければなりません。 勝手に開封した場合は、5万円以下の過料に処せられることがあります。

公正証書遺言

公正証書遺言の作成方法

公正証書遺言は。公証役場で作成する遺言書です。 遺言者の遺言内容を公証人が筆記し、遺言者と証人2人に読み聞かせ、 遺言者、証人が確認後、遺言書に署名押印します。 公正証書遺言は、遺言の真正性を確保するとともに、遺言書の紛失や改ざんを防止することができます。 また、公証人が関与するため、法律的にミスのない遺言書を作成することができます。

証人

公正証書遺言を作成するには、証人2名が必要です。 なお、下記の人は、証人になることができません。また、立会人になることもできません。

  1. 未成年者
  2. 推定相続人(遺言者が亡くなると相続人になる人)
  3. 受遺者(遺言によって遺贈を受ける人)
  4. 2、3の配偶者および直系血族

必要書類

公正証書遺言作成時は、公証役場に以下の書類の提出が必要になります。

  1. 遺言者の本人確認資料(印鑑登録証明書又は運転免許証等顔写真入りのもの。)
  2. 遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本
  3. 受遺者の住民票(財産を相続人以外の人に遺贈する場合)
  4. 財産に不動産がある場合は、登記事項証明書(登記簿謄本)、固定資産評価証明書
  5. 遺言者が証人を用意する場合は、証人予定者の名前、住所、生年月日及び職業をメモしたもの
  6. 遺言書原案

公正証書遺言の保管等

公正証書遺言の原本は公証役場に保管されます。遺言者には正本・謄本が交付されます。 遺言者の死後には遺言書の検認は必要なく、遺言の執行は正本でする事ができます。

公正証書遺言と自筆証書遺言の違い
公正証書遺言自筆証書遺言
作成方法公証人が作成遺言者が自書
証人2名不要
作成費用公証役場手数料
(目的の価額等により数万円程度)
なし
保管場所原本は公証役場で保管自宅等で保管
法務局に保管申請(手数料あり)
検認手続不要必要
(法務局に保管申請した場合は不要)

相続人と相続分

法定相続分

遺言書を作成する上では、自分の推定相続人が誰なのかを把握しておく必要があります。 理由は、後で述べる遺留分が関わってくるからです。法定相続人は、本人の配偶者及び血族であり、 配偶者は常に相続人になります。血族は子、直系尊属(父母等)、兄弟姉妹の順に相続人になります。 各相続人の遺産に対する持分を相続分といいます。法定相続分は、相続人の構成に応じて下表のように定められています。

相続人の構成法定相続分
配偶者血族相続人
配偶者+子2分の12分の1
配偶者+直系尊属3分の23分の1
配偶者+兄弟姉妹4分の34分の1

同順位の血族相続人が複数あるときは、各相続人の相続分はそれぞれ等しく按分されます。 ただし、兄弟姉妹が相続人の場合、父又は母が異なる兄弟姉妹の相続分は、両親が同じ兄弟姉妹の2分の1になります。

代襲相続

遺言書作成時に遺言者の子が既に亡くなっている場合、子の下に直系卑属(遺言者の孫)がいれば、子 の相続権を代襲して推定相続人となります。これを代襲相続といいます 子の代襲相続は、孫も亡くなっていれば、ひ孫に再代襲されます。 なお、兄弟姉妹についても代襲相続の制度がありますが、代襲は一代までです。
詳しくは相続手続のページを参照してください。

遺言事項

遺言書に書くことができる事項は、民法や他の法律で定められています。以下に主な遺言事項を示します。

(1)相続分の指定

遺言者は、法定相続分の規定に拘わらず、各相続人の相続分を定めることができます。ただし、後に述べる相続人の遺留分を侵害する事はできません。

(2)相続させる遺言

○○に××銀行の預金を相続させる、○○に自宅の土地を相続させるといった内容の遺言です。 相続させる遺言は、法的には遺産分割方法の指定と解されています。また、遺産分割方法の指定の結果、各相続人の相続分が法定相続分と異なった場合は、相続分の指定を含む 遺産分割方法の指定と解されます。

(3)遺贈

相続人以外の者に財産を贈与する遺言です。例えば、内縁の妻や長男の嫁などに財産を渡す行為がが該当します。 遺贈についても、後に述べる相続人の遺留分を侵害する事はできません。なお、遺贈に似たものとして死因贈与がありますが、 死因贈与は契約であり、財産を渡す側ともらう側の合意が必要になります。

遺贈は遺言者の意思だけでできますが、遺言者の死後、受遺者は遺贈を承認するか放棄するかを選ぶ事ができます。受遺者が遺贈を放棄した場合は、 対象財産は相続人に帰属します。

(4)その他の遺言事項

上記以外の遺言事項としては、以下のものがあります。

  • 子の認知
  • 相続人の廃除またはその取消し
  • 未成年後見人等の指定
  • 祭祀承継者の指定
  • 配偶者居住権の遺贈
  • 生命保険金の受取人の指定変更(保険法)
  • 信託の設定(信託法)

(5)付言事項

遺言書には、遺言書を作成した理由や相続人への思いを付言事項として書くこともできます。 付言事項には法的効力はありませんが、残された相続人が、遺言者への理解を深める事で、相続人間のトラブルを防ぐ効果が期待できます。

遺留分

遺留分とは

遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人が、遺産に対して有する最低限の持分です。 遺言者は、遺言によって相続分の指定や遺産分割方法の指定、遺贈などができますが、 遺留分は遺言によっても侵害する事ができません。

遺留分の割合

遺留分の割合は、まず遺産全体に対する総体的遺留分の割合を求め、総体的遺留分に法定相続分をかけて各相続人の遺留分を求めます。 総体的遺留分は次のように定められています。

  1. 配偶者、子が相続人の場合・・・財産価額の2分の1
  2. 直系尊属のみが相続人の場合・・・財産価額の3分の1
  3. 兄弟姉妹が相続人の場合・・・なし

従って、例えば相続人が配偶者と子2人の場合、遺留分は配偶者が4分の1、子が1人あたり8分の1になります。

相続人総体的遺留分法定相続分遺留分
配偶者遺産全体の2分の12分の12分の1×2分の1=4分の1
子14分の12分の1×4分の1=8分の1
子24分の12分の1×4分の1=8分の1
なお、総体的遺留分の財産価額は次のように求めます。

財産価額=被相続人の死亡時の財産の価額+生前1年間にした贈与の価額-債務の全額

※相続人に対する贈与は、生前10年間にした贈与(婚姻もしくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限ります)が財産価額に参入されます。
※被相続人と受贈者双方が遺留分を害することを知ってした贈与については、生前どの時期にした贈与であっても財産価額に算入されます。

遺留分侵害額請求

遺言で遺留分を侵害された相続人は、受遺者や相続人に対し遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます。 これを遺留分侵害額請求といいます、 遺留分侵害額請求をするかどうかは、あくまで相続人次第ですが、遺言書を原因とする相続争いを避けるためにも 、遺留分を考慮した遺言書の作成が必要です。

遺留分の時効と遺留分の放棄

遺留分侵害額請求権は、次の場合に時効により消滅します。

  • 遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないとき
  • 相続開始の時から10年を経過したとき

また、相続人は遺留分を放棄する事もできますが、相続開始前の遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可が必要です。 これは、遺言者からの不当な圧力によって、相続人が遺留分を強制的に放棄させられるのを防ぐためです。

遺言事例

以下に、遺言書内容の事例を示します

相続分の指定

相続分を指定する遺言例
一、遺言者は、次の通り相続分を指定する。
妻 ○○○○(生年月日) 12分の3
長男○○○○(生年月日) 12分の7
長女○○○○(生年月日) 12分の1
二女○○○○(生年月日) 12分の1
長男は家業を継いでおり、遺言者の死後は妻の面倒も見る予定であるため、上記のように相続分を指定した。

遺言者は、遺言書で各相続人の相続分を指定する事ができます。 遺言者が指定した相続分は法定相続分に優先しますが、 遺留分を侵害した場合は遺留分侵害額請求の対象になります。 なお、指定された相続分に基づき誰がどの遺産を取得するかは、相続人間で協議が必要です。

遺産分割方法の指定(相続させる遺言)

相続させる遺言の例
-、遺言者は、下記の土地建物を遺言者の妻 ○○○○(生年月日)に相続させる。

 <土地の所在、地番、地目、地積等>
 <建物の所在、家屋番号、構造、床面積等>

二、遺言者は、下記の定期預金を遺言者の長男 ○○○○(生年月日)に相続させる。

 ふたば銀行○○支店 口座番号1234567

相続させる遺言の場合は、誰がどの財産を取得するか明確にすること、また、財産は特定できるように こ書くことが重要です。財産目録を添付して、本文で項番を指定する方法もあります。

遺言執行者の指定

遺言執行者とは、遺言者から遺言の執行を委託された人をいいます。 遺言執行者を指定しておくと、遺言執行者の権限のもとで遺言内容の実現が円滑に進みます。 遺言執行者は、遺言内容の全部または一部について指定することができます。

遺言執行者指定の遺言例
一、本遺言の執行者として次の者を指定する。
 住所○○○○
 氏名○○○○
 生年月日○○○○
 職業○○○○

遺贈

遺贈には、遺産に対する割合を指定して遺贈する包括遺贈と特定の財産を遺贈する特定遺贈があります。

包括遺贈
財産の割合を指定して遺贈する方法です。包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を持ちます。 他に相続分の指定を受けた相続人がいる場合、包括受遺者を含めた遺産分割協議が必要になります。
特定遺贈
預金、不動産など特定の財産を遺贈する方法です。
 特定遺贈は、遺言執行者を指定する事により、遺言執行者が遺贈を行うことができます。 遺言執行者の指定がない場合は、家庭裁判所に遺言執行者の選任の請求をするか、相続人全員で遺贈を行う必要があります。
包括遺贈の遺言例

一、遺言者は、遺言者の有する全財産を遺言者の内縁の妻 ○○○○(生年月日)<住所>に遺贈する。
特定遺贈の遺言例
一、遺言者は、下記の土地を遺言者の甥○○○○(生年月日)<住所>に遺贈する。

 <土地の表示>

一、遺言者は、遺言者の有する全財産を遺言者の内縁の妻 ○○○○(生年月日)<住所>に遺贈する。

業務案内

幣事務所では、遺言書作成に関するご相談および遺言書原案の作成業務を承っております。お気軽にご相談ください。

業務内容
1.ご相談 ご相談者から遺言内容の希望や、遺言方式についてお伺いします。
2.資料の収集 遺言書作成に必要な戸籍等謄本や財産資料の収集を行います。
3.遺言書原案の作成 遺言者の希望をもとに法的な整理をした上で遺言書原案を作成します。
4.遺言書の作成 遺言書原案に従い、ご自身で自筆証書遺言を作成頂くか、公証役場にて公正証書遺言を作成します。 公正証書遺言の場合は、公証役場手数料及び証人手数料が発生します。公証役場との連絡調整及び証人の準備は、弊事務所で行います。
5.遺言書の保管 自筆証書遺言の場合は、法務局に保管申請するか、ご自身で保管します。 公正証書遺言は、原本を公証役場が保管し、遺言者には正本・謄本が渡されます。
6.料金のお支払い 弊事務所の報酬及び立替費用をお支払い頂きます。